世界が反転しない 「序章 届けられなかった謝罪」(レン視点)
「……っし! これでOKv」
俺はガッツポーズを決めて、自画自賛した。
玄関と台所に用意した仕掛けと、食卓の上の料理と、お祝いのプレゼント。
何日も前から今日の為に計画していたのを、半日で全部用意するのはほんとに自分で自分を褒め倒したいぐらいだよ。
……仕方ないんだけどね。あ、でもだから俺がんばれたんだ。
「マスター驚くだろうな〜」
マスターがびっくりして尻もちつく姿が浮かんで、俺はワクワクしながらマスターの帰りを待ってたんだ。
まず驚かそうと思って、玄関先に隠れて。
「マスター、早く帰ってこないかな〜」
ドキドキワクワクしながら、俺は待った。
……。
………………………………………。
遅い。
時計を見たらとっくにマスターが帰ってきてもおかしくない時間で、いくら遅くなっても帰ってくる時間だ。
でもマスターは帰ってこない。
「マスター、おっそいぞ〜…」
……まさか俺を驚かそうとしてるの?
はっ! 俺がドッキリやろうとしてるの逆手にとって!!
う〜〜〜、それなら俺も逆の逆を取ってやるんだからな!!
待ってろよ! マスター!!
……。
…………………………………………………。
隠れてた俺はとうとう玄関前に出てきた。
でも、玄関の向こうからは誰も来ない。誰もいない。
「マスター…、いくら俺が悪戯ばっかしてるから逆にドッキリやろうとしてるからって、たち悪すぎじゃない?」
ねぇ…、だってもう次の日の時間になっちゃったよ?
俺達の記念日…、過ぎちゃったよ?
なんで、帰ってこないの?
やっぱり…朝のこと怒ってるの?
朝、俺マスターと喧嘩して…、それを謝りたくて、俺待ってるんだよ。
「早く、帰ってこいよ。…馬鹿マスター」
俺は玄関に膝を抱えて座り込んで、玄関のドアだけを見つめて待った。
……。
…………………………………………………………………………。
チュン チュン
外から鳥の鳴き声が聞こえてきて、朝が来ちゃったことが嫌でも分かった。
マスターは、まだ帰ってこない。
もうこうなったらサドンデスだ。
帰ってくるまで待ってやる。
俺がそう決意したとき、カギが開く音がした。
「! マスター!!!!」
「っ!?」
「……あ、れ? 誰?」
「あな…たは…?」
飛び上るように立ち上がって、飛びついてやろうと思ったら、玄関に入ってきたのは、おばあちゃん手前くらいの女の人だった。
…どこかで見たことあるような……、あっ…。
「あなたは…、もしかして、レン…君?」
「はい…」
マスターのお母さんだ。写真に写ってるのよりもうちょっと年食ってる感じだけど間違いない。というより…なんかげっそりしちゃってて…。どうしたんだろう?
どうして?
どうしてマスターじゃなくて、マスターのお母さんが来たの?
マスターは?
「ああ…、あの子が言ってた、えっとヴォーカなんとかっていう、機械って聞いていたんだけど…、本当に、まるで人間みたいなのね?」
「あの……、すみませんが、マスターは…?」
聞いちゃだめだ。でも聞かなきゃ。怖い。でも聞かなきゃ。悪い予感ばかりだ。悪い方に考えるな。
そんなはずないじゃないか!
葛藤しながらやっとの思いで聞いたら、マスターのお母さんは俺の悪い予感を肯定するように俺から目を背けた。
やめて お願い そんな顔しないでよ 俺はただの機械だけど…人間とはきっと比べ物にならいないけど、それでも…
「あの子は……」
やめて 言わないで 言って 教えて
「昨日の夜…、帰り道に、通り魔に刺されて…、死んだわ」
ご め ん な さ い マスター
謝りたかった だけどもう届かない
あとがき
ひたすら健気なレンが書きたくなって始めました。
テーマをつけるのだとしたら、そうですね〜、親子?
マスター、ごめん…初っ端から戦線離脱。まだ顔出しさえしてないのに…。しかも死因が酷い。
ヴォーカロイドが死ぬ話は結構あるけど、逆って少ないかな?っと思ったら浮かんだ品です。
次回、レンとマスターの出会いから序章手前の事件に至るまで。